おにぎり猫のものがたり 第三十三話 更新しました

14:46:18

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—–ただいまから、午後、2時、35分を、お知らせします。
ピッ・・ピッ・・ピッ・・ポーン—–

「おう、時報のねーちゃんがもうじきだって言ってるぞ。みんな集まれや。」
「ねーねー何すんの」
「黙祷だよ黙祷」
「黙祷って、あれ?三年前の、例の、あれ?」
「そうよ、毎年みんなで集まってやるって決めてんだ」
「黙祷って・・どうすりゃいいもん?黙って目ぇつぶって下向いてりゃいいの?」
「それじゃあ意味ねぇだろうがよ。黙って祈るのが黙祷だろ。祈るんだよ、めいめいが。心んなかで」
「生きててすみません、とか?」
「なにどっかの文豪みてぇな事いってんだよ。なに謝る事があんだよ」
「だって、さあ。おいら生きてるもんなぁ。のうのうと。
毎日けっこうお気楽に飯食って寝て遊んでって、大したことしてないし。
何かさぁ、死んじゃった人に悪いなぁ、って」

「うしろめたいのか」

「そう。うしろめたくなんの。生きてんのが。
それにまだ困ってる人もいっぱいいるじゃん。ますますうしろめたいの。単なるのらねこの身で。
だから黙祷んときって居心地悪くてさぁ、そんでちょっと食欲なくなっちゃったりして」

「そりゃあ、違うだろうぜ。生きててごめんなさい、じゃねぇ。あとはまかしとけ、だ」

「まかしとけ?」

「そーだ。何のめぐりあわせだかおいら達は生きてる。
あっち側にいっちまった人らは別においら達を恨んじゃいねぇ。
むしろ応援されてんだ。後のことはよろしく頼むぜ、って」

「やんなきゃなんないこと、いっぱいあるもんねぇ」

「そーだ。そんでもって単なるのら猫にゃ大したことは出来ねぇけどもな、
あの場で生き残って持ちこたえてる人らの味方になる事は出来んだ。
金や物を送ったり手伝ったり出来なくてもな、
ずっと味方でい続ける事は出来るんだよのら猫にも」

「ぎりぎりで持ちこたえてる人にはよ、物や金もありがたいけど、
他人から”心にかけられる”ってのも嬉しいもんなんだよ。
おいら達だってそうだろう。めげてるときに慰めてもらったらどんだけ嬉しいか。
物や金は使えば無くなっちまうけどな、味方がいるって心持はな、
人の内側でエネルギーになって、前に進む助けになれるんだよ。
おんなじぐれぇ役に立つんだ。
金や物は金持ちにまかしときゃいい。おいら達は気持をばんばん送るんだよ。」

「そっかー。それならいいや」
「ここに味方がいるぞーッ」
「あとのことは、まかしとけーッ」

「これだな、おいら達の黙祷は」

——午後、2時、45分、50秒を、お知らせします。
ピッ・・ピッ・・ピッ・・ポーン—–

「さ、時間だ。口ぃ閉めな」

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